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大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)1108号 判決 1970年5月26日

原告 松井光夫こと 金光夫

右訴訟代理人弁護士 坂本秀之

被告 安家茂美

右訴訟代理人弁護士 藤田一良

主文

一、被告が、訴外鄭大天に対する大阪地方裁判所昭和四三年(手ワ)第六六七号事件の執行力ある判決正本に基き、昭和四四年二月二〇日別紙目録記載の動産に対して為した強制執行はこれを許さない。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、本件につき当裁判所が昭和四四年三月五日為した強制執行停止決定を認可する。

四、前項に限り仮に執行することができる。

事実

<全部省略>

理由

<前略> そこで被告主張の優先弁済の訴の問題につき考えるに、譲渡担保なるものの元来の目的は担保作用であること、<証拠>によれば、本件譲渡担保は、多くのそれと同様、清算型(処分清算型)のものであること等に徴すると、殊に本件の如く弁済期到来前の譲渡担保の場合には、同権利者は、後順位の執行債権者に対し、優先弁済の訴にのみよるべく、第三者異議の訴はこれを提起し得ないとの考え方も生じ得よう、しかし、わが法制のとる物権法定主義等の見地からする根本的な検討はさて措くとしても、一般に競売、殊に動産競売における競売価格の著しき低額ぶり、これを強行した場合に生ずるであろう現実の反応(たとえば高額担保の一層の要請)、更に譲渡担保の殆んどすべてが清算型であり、債権者の取り切り型でないこと(即ち、相当な市場価格で処分され、その剰余が債務者に返還せられる可能性があること)等を併せ考えると、一般に動産につき行われる譲渡担保制度について、前記優先弁済の訴によるのを建前とすることが、果して債務者及び後順位債権者を適正に保護し、又その担保的機能を如実に反映するものと謂い得るかは、甚だ疑問の存するところというべきである。

当裁判所としては、少なくとも動産護渡担保に関する限り、たとえその性格が清算型に属し且つ清算前であっても、当該権利者は執行債権者に対し、第三者異議の訴を提起することが出来、只例外として、譲渡担保権者の債権額に比し当該物件の価格が著しく高額であるとき、債務者に他に資産なきとき、その他右異議の訴によるを担当としないとき等の場合にのみ、右異議の訴を排斥し、或いは優先弁済の訴としてこれを処理するのが相当であると考える。

そこで右の見地から本件をみるに、本件につき、右に挙げた例外的事由の存することは、被告の具体的に主張立証しないところであり(なお本件債権額に対し、<証拠>によれば本件動産の執行官評価額は計二〇万円相当である。又、本件譲渡担保設定の当時、訴外鄭所有の不動産が他に担保に入っていたとの前示認定は、直ちに右に掲げた例外事由の第二点を招来するものではない)、その他本訴につきこれを権利の濫用として排斥すべき事由も何ら認められないから、本訴は優先弁済の訴たるべきこと、ないし権利濫用であるとする被告の本主張も亦理由がない。<以下省略>。

(裁判官 小谷卓男)

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